日時:6月11日(木)17:00~18:00
報告者:丸山 智也氏(一橋大学大学院経済研究科)
報告テーマ:日本の銀行産業における長期的な競争変遷について
討論者:小倉 義明氏(早稲田大学)
(論文要旨)
本稿の目的は、日本の銀行産業の長期的な競争水準の変遷を計測し、そのエビデンスを提示することにある。競争水準は、全国銀行財務諸表分析に含まれる銀行レベルのパネルデータを用いて、貸出市場の需要および供給関係式の推定を通じて得られる市場支配力(コンダクトパラメータ)として評価される。本分析では、個別銀行レベルの需要および供給関係からなる同時方程式モデルを構築し、識別に配慮した推定が行われる。産業レベルの市場支配力はこの個別銀行レベルの均衡の集積系に対応するものとして導出され、市場支配力の推移と銀行産業の集中化の相関関係を通じてクールノー型均衡モデルがテストされる。なお、同時方程式を識別する構造的な手法を 2000 年以降の日本の銀行産業全体の貸出市場に適用した研究は、今のところ存在していない。
この実証分析から、第一に 1970 年代から 1980 年代の規制緩和局面にあわせて市場支配力が低下していること、第二に 1980 年代後半および 1990 年代後半において右下がりの供給関係の発生とともに市場支配力が低下していること、第三に 1990 年代後半以降は統合合併を中心に銀行数が減少していく中、市場支配力は 2000 年にかけて上昇するが、その後は緩やかな低下傾向に転じて今に至っていること、が明らかになった。この市場支配力の低下(競争促進)と集中化が同時進行する状況への転換はクールノー型均衡モデルの不成立にあたり、ある時期から貸出市場が構造的に変化した可能性を示唆する。
Keywords: Bank competition, Japanese banking sector, Financial intermediary, Conduct pa-rameter